ショートショート 『思い出ぼくろ』





「おばあちゃん、ありがとう。」
わたしはそうつぶやくと、ひつぎのなかにちいちゃなふくろをいれました。
わたしのなつやすみは、まいとしおかあさんのうまれたいなかですごします。そんななつのあるひ、セミしぐれのきこえるえんがわで、おばあちゃんはにこにこしながら、にわにいるわたしをてまねきしています。わたしがちかくにいくと、おばあちゃんはしわしわのてを、きようにこきざみにうごかして、なにかをあんでいます。「おばあちゃん、なにつくっているの?」わたしがきくと、おばあちゃんはかおのしわを、ふたつにもみっつにもかさねて、さっきよりもにこにこしてこたえました。「きんちゃくぶくろ。」「きんちゃくぼくろ?」「そう。きんちゃくぼ・く・ろ。」おばあちゃんはほほえみながら、「ミヨッペはちっちゃいから、『ぶ』と『ぼ』がじょうずにいえんねぇ。ほらできた。」そういってその『きんちゃくぼくろ』を、わたしのスカートのホックにゆわえました。みどりときいろのけいとであまれた『きんちゃくぼくろ』は、ピンクのスカートにとってもおにあいで、きれいでかわいらしくて、わたしのちょっとしたじまんです。わたしは、おかあさんのうまれたいなかへかえるときは、いつも『きんちゃくぼくろ』のピンクのスカートをはいていきます。おかあさんは、「またおなじスカート?」ってよくいいます。でも、いなかでのかわあそびやむしとりには、すごくいいんです。『きんちゃくぼくろ』にキラキラこいしをいれたり、「あっ、キラキラこいしってのは、かわのなかにおちているツルツルしたこいしのことです。」それから、セミをいれたりもできるんです。ホタルだってはいります。『きんちゃくぼくろ』には、おかしだってはいります。よぞらのおほしさまをながめながら、ドロップをなめます。すごくあまいです。クワガタとりには、ドロップのあきかんが、そのままシロップいれになります。だからなつやすみになると、いつも『きんちゃくぼくろ』のピンクのスカートをはいていきます。
ことしでなんどめでしょう。わたしもははとなり、おばあちゃんのこともきおくのかたすみにとおざかり、またあついなつがやってきました。そしてそのなつ、おばあちゃんのふほうのしらせがとどきました。そのひ、なにげなくひきだしたタンスのかたすみに、おもわずわたしのめがとまりました。そこには、あのピンクのスカートがちいさくおりたたまれてはいっていました。いままできにもとめていなかったピンクのスカート。わたしは、そのスカートのホックにてをのばしました。ホックには、しわしわのおばあちゃんのてであまれた、しわしわになったちいちゃなきんちゃくぶくろがゆわえられていました。みどりときいろのけいとのあみめはちぐはぐで、おせじにもじょうずとはいえないあみかた。そのきんちゃくぶくろには、もうなにもはいっていません。でも、わたしはおもいだしました。『きんちゃくぼくろ』には、たくさんのおもいでとおばあちゃんのあいじょうがつまっていることを。ごめんね。『きんちゃくぼくろ』。タンスのかたすみにずっとしまったままで。ごめんね。おばあちゃん。きおくのかたすみにずっとしまったままで。『きんちゃくぼくろ』、これからはおばあちゃんとずっといっしょだよ。よろしくね。


〜おわり





Hiroshi Morita(kanjii)
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